2007年08月12日

国盗人--「影」の再考察

日向で己の影でも眺めて、

その醜さを鼻歌で歌うのが関の山。


となれば、美男美女と口上手だけがもてはやされるこの時代に、
恋の花咲くはずもないこの俺は、もはや、
悪党になるしかない。
世の中のくだらぬ喜び一切を憎悪してやる」
(新訳 リチャード三世 シェイクスピア 河合祥一郎/訳 角川文庫より)


昨日と今日、つまり「国盗人」の記事を書いてからアクセス数が急増しました。さすが悪三郎パワー(笑)
思った以上に盛り上がっているようです、国盗人。

では本題。(昨日の日記を参照していただけると分かり易いです)

昨日「影」についての解釈で、影は「リチャードの内面にわずかに残る良心」だと定義しました。
今日はそれを再考察します。
「影=良心」だけでは説明が付かないからです。

ではまず、話の進展に沿って、「影」の存在の変化をおおまかに書きます。


最初:影@=「自分の醜さを鼻歌で歌う」為のもの(−)
↓  ☆最初に書いた部分参照

↓ :影A=見とれるもの(+)・・・つまり、執着するもの
   ☆「道々見とれて行きたいからな、自分の影に。」 
↓  
最後:影B=臆病な良心(−)・・・悪党であるリチャードが悪事を働くのを妨げる物だから、ここではマイナス。


おおまかにはこんな感じです。
これを見ると、影が(+)として存在するのは中盤だけですが、中盤は結構内容が濃いので、+が占める割合は多いと考えます。

つまり「影」は変化する。
何故?

【影@→影A】の変化

体つきも何もかも欠点ばかりのリチャードは、マイナスである己の醜さを昇華してしまうために、明晰な頭脳と口の上手さという能力を生かして、「悪党になる道を選んだ」。
つまり、「悪」に執着し「悪」を崇めることによって、自分のマイナスをプラスへと変化させたのです。
要するに、リチャードは開き直った(笑) 



【影A→影B】の変化

「臆病な良心」は、原作では影と直接結びつけて表現されていないのですが、考察の過程上、ここでは影に分類してしまいます。

@→Aで、「−→+」に変化した「影」ですが、最後まで影の存在を追うとしたら、最後は「−」でしょう。

今までは「影=悪行(+)」に見えていたものの、リチャードもやっぱり人間です。良心は少なからず残っていた。
だから、「悪行」に見えていた影が、実は「良心」だったと判明するのが最後の場面。

良心は、リチャードが悪事を働くのを妨げ、リチャードから「悪党」という形容詞を奪ってしまう。悪党でなくなれば、リチャードはただの醜い人間、完全なる敗北者です。
そんなのは嫌だったからこそ、彼は悪党の道を選択した。

しかし悪の道にはやっぱり限界がある。
裏切られ、呪われ、結局は王座から引きずり落とされてしまう。
悪を貫くことは出来ないという現実がリチャードの前に立ちはだかり、彼を絶望させるわけです。

その現実はイコール「良心」であり、リチャードにとって「良心」は絶望につながるのです。
良心をもったら負け。
正義を認めることになるから。

そういうわけで、「影=良心」は完全なる絶望ですから、当然マイナスになります。



ここまで考えてきて、「リチャード三世」が悲劇作品であるという意味がよく分かりました。リチャードは戦に負けて死にますから、悲劇なのは当たり前ですが、「悪党が倒されるんだから悲劇じゃないじゃん」という考えもありました。
でも、リチャード視点で考えると、この作品が悲劇である意味がわかります。
さっきも言ったように、リチャードにとって「良心=絶望」だからです。

だから私はリチャードに同情してしまったんだろうなぁ。。
悪人の視点から物を見ると、色々考えさせられますね。

悪には悪なりの言い分がある。
その人物が行った悪行は、周りから見れば「悪」だとしても、本人から見れば「悪」ではないこともあるんだなと。


萬斎さんの「国盗人」は演出に凝っている傾向が強かったので、ここまで深く解釈する必要はないと思いますが、私は原作を読んだものですからつい深読みしてしまいました。。

でも確かに、萬斎さんの「国盗人」で強調されていた(と思う)笑いの要素も、リチャード三世という作品がもつ、いくつもの「顔」のうちの一つに違いありません。



(「リチャード三世」からの引用文は全て「新訳 リチャード三世(最初の文に書いたとおり)」より)
posted by 真禅寺忍月 at 18:42| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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